おすすめ本を料理のフルコースに見立てて選ぶ「本のフルコース」。
選者のお好きなテーマで「前菜/スープ/魚料理/肉料理/デザート」の5冊をご紹介!

第301回 くまざわ書店 アリオ札幌店 北村 侑美子さん

5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が 腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。 おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。 好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.69 くまざわ書店 アリオ札幌店 北村 侑美子さん

雑誌・文庫・新書担当の北村さん。私物の『十二国記』シリーズを持参してくれた。

[本日のフルコース] 室内にこもりがちな冬こそ読みどき! 「長編ファンタジー」フルコース

[2016.11.28]

書店ナビ くまざわ書店アリオ札幌店の北村侑美子さん、フルコース企画初の「ファンタジー」ジャンルでつくってくれました。いつか誰かがつくってくれるはず、と期待していたので「待ってました!」という気持ちです。
北村 そう言っていただけて、私もうれしいです。ミステリーや時代小説も好きなんですが、掲載が冬休み前だということで、そういう長く室内にこもりがちな時期にぜひ読んでほしい長編ファンタジーで考えてみました。
[本日のフルコース] 室内にこもりがちな冬こそ読みどき! 「長編ファンタジー」フルコース

前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

ハリーポッターシリーズ J.K.ローリング  静山社 みなさんご存知の長編ファンタジーの王道。孤独な12歳の男の子が魔法使いとして成長するお話です。今年は新シリーズ『ファンタビ』の映画公開やハリポタ舞台劇の脚本の発売もあり、まだまだ広がり続ける世界から目が離せません!

書店ナビ あらためてご紹介しますと、シリーズ1作目の『ハリー・ポッターと賢者の石』がイギリスで発売されたのは1997年。著者のJ.K.ローリングはこれがなんとデビュー作というから驚きです。 シリーズは全7巻まで続き、2001年から公開された映画は全8本。子どものために親が徹夜で並んで新刊を買い求めるなど、さまざまな社会現象を生み出しました。
北村 1作目は、中学生のときにおこづかいで買って読みました。原作のハリーは映画ほど"気弱ないじめられっこ"ではなく、口が悪かったりカッコつけたがったりする"普通"の12歳の男の子。 11月発売の舞台劇の脚本『ハリーポッターと呪いの子』では父親となったハリーが出てきますが、結構頭がかたくて子どもたちをイラっとさせます(笑)。シリーズを読み続けていると、それもうなずけるところがあります。 個人的には食にまつわる描写が大好きで、『賢者の石』に出てくる「百味ビーンズ」には衝撃を受けました。ちょっと恐いけど食べてみたい!

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

精霊の守り人シリーズ 上橋菜穂子  新潮社 「精霊」にとり憑かれ、命を狙われる皇子チャグムと、女短槍使いバルサが世界の謎に迫る! 著者は文化人類学者でもあるので、登場人物が属する民族や文化、風習などの描写が非常に丁寧で、物語の世界観にリアリティーを与えています。

書店ナビ 全10巻完結の長編で、ただいまNHK-BS2で毎週土曜朝8時台から全26話のアニメが放送中。 さらに実写化のシーズン2が来年1月21日から放送が始まります。
北村 もし本から入るのが気がすすまないときは、アニメでもドラマでもお好きなところから入っていただけたら、と思います。 ファンタジーではよく伝説や神話が登場人物の人生を翻弄しますが、その善悪は誰が決めているのか、誰のための伝説なのかが物語の核となります。 ちなみにこの「守り人」シリーズに出てくる食事を再現した『バルサの食卓』という本がありまして。料理を作ったのは、〈南極料理人〉としておなじみの西村淳さんを中心とする「チーム北海道」です。
書店ナビ 2度の南極観測隊経験で「手近な食材でなんとかする」ことに長けた料理人の西村さんチームが再現する〈ファンタジーの味〉。こういう本がスピンオフで生まれること自体が名作の証しですね。

上橋菜穂子・チーム北海道  新潮社 実際に西村さんも作ってみたのは、クレープのような「ファコ」。『天と地の守り人 第二部』『獣の奏者I 闘蛇編』に登場する。

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

十二国記シリーズ 小野不由美  新潮社 私が長編ファンタジーに初めて触れた思い入れのある作品です。神獣「麒麟」によって「王」が選ばれる中国風ファンタジー。壮大な世界観ですが、読み終えると自分は他者とどうあるべきなのか、大事なことを考えさせてくれます。

書店ナビ 出版元の新潮社に「十二国記」専用サイトがあるほどの人気シリーズです。 シリーズ1作目は『月の影 影の海』上・下ですが、実はその何年も前に原点となる『魔性の子』が出版されており、現在は7作目まで出ています。 さらに当初はティーン向けの講談社X文庫ホワイトハートから出版されていたところ、のちに読者層が大人にまで広がり、新潮文庫に移ったという作品自体の背景も入り組んでいる一大ファンタジーです。
北村 巻ごとに主人公や舞台となる国が変わりますが、ある巻の主人公が立派な「王」となってあとの巻に出てきたりして、その後の成長を追うこともできます。アニメ化もされています。 シリーズ中、私が特に好きなキャラクターは、ネズミの姿をした楽俊(らくしゅん)。主人公の陽子を助けてくれる秀才で、自身が差別を受けた経験があってもその相手を許す度量を持っている。私自身、楽俊のことばに揺さぶられることが多いです。

北村さんの私物、ホワイトハート版。絵師・山田章博による美しい表紙が目印。本文イラストはホワイトハート版だけに収録されていたが、新潮文庫の《完全版》には表紙・本文イラストともに山田章博が描き下ろしている。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

新世界より 上・中・下 貴志祐介  講談社 「呪力」という特殊な力を持ちながら、人間同士の争いがない美しい世界。そんなユートピアのような世界のいびつさが徐々に明らかになっていく…。

書店ナビ 著者の貴志さんはホラー小説の名手。ということは、ダークファンタジーですか?
北村 設定が「1000年後のとある集落、神栖(かみす)66町」なので、サイエンス・ファンタジーに近いかもしれません。 主人公は「新世界」で生まれた12歳の渡辺早季。同級生たちと町の外へ出かけ、図書館で過去の端末機「ミノシロモドキ」を使い、1000年前に文明が崩壊した理由と、そこから現在に至るまでの歴史を知ってしまう…。 全部で1000ページを超える物語中、主人公は12歳、14歳、26歳と成長していき、最後に「新世界」の本当の姿が見えたとき、鳥肌が立ちました! 今日ご紹介している5シリーズ中、冊数は上・中・下の3冊と一番少ないですが、読後の暗たんたる気持ちはダントツです(笑)。でもこの読みごたえはまさに《肉料理》! アニメ化もされ、全25話がDVD・ブルーレイになっています。

「傑作といわれている『グイン・サーガ』もいつか読んでみたいです!」

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

有頂天家族 森見登美彦  幻冬舎 京都、下鴨神社に暮らす狸一族が活躍する、ほのぼの&ちょっぴり泣ける家族の物語。人と狸、天狗が入り乱れ、空を見上げると時おり茶室が飛んでいる、そんな奇想天外な世界も妙にすんなり受け入れられる摩訶不思議なファンタジーワールドです。

書店ナビ 2007年に1作目、2015年に2作目の『有頂天家族 二代目の帰朝』が出版され、次に出る3作目で完結予定のミニシリーズ。 こちらもアニメ化されていますね、全13話。何度か、夜中に見たことがあります。
北村 あれも面白かったですよね! 絵柄もかわいくて、原作の雰囲気がとてもよく出ていたと思います。 大学時代、京都で暮らしていたので、世界遺産の下鴨神社をはじめ物語に出てくる名所や何気ない風景がとても懐かしくて、大好きな作品です。 主人公は下鴨家の三男の矢三郎。その矢三郎がいつまでも子どものままじゃないところも、気に入っています。

ごちそうさまトーク 読めば私たちも異世界の住人に

書店ナビ どのシリーズもアニメ化や実写化されているのは、やはり世界観がそれらの"変化"に耐えうるからなんでしょうね。
北村 そうなんです。単に、子どもが喜ぶハッピーエンドだけでは皆に愛されるファンタジーにはならなくて、神話や風習、そこで生きる人々の生活、文化、思考などがきちんと作りこまれているから、その異世界に引き込まれていく。 だから大人が読んでもじゅうぶん面白いんです。
書店ナビ 読者の私たちも異世界の住人になれる長編ファンタジーフルコース、ごちそうさまでした!
北村侑美子(きたむら・ゆみこ)さん 札幌出身。大型書店の契約社員勤務を経て、2016年にくまざわ書店の正社員に。 ●くまざわ書店アリオ札幌店
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